オウムを生きて―元信者たちの地下鉄サリン事件から15年

日本社会を震撼させ「宗教」への信頼をぶち壊しにしたサリン事件から15年。あれは何だったのか。本書では、事件前後の信者の心境の変化を、当事者へのインタビューから明らかにし、その実相の一端に迫る。世界や自己に対する繊細な感性や思考の深度ゆえ「普通の人生」から脱線しオウムに本格的にコミットしていった人々の心情が薄々ながらも理解できるとともに、また事件後の教団がいかに再編成されていったのか、その実情も当事者の目線から（ということはかなり主観が混じっているわけだが）鮮明に見えてくる。「アレフ」および「ひかりの輪」それぞれの独自展開、本書にも登場する四女の最近の意欲的なメディア進出と、「オウム問題」はまだ終っていないことが示唆される。むろん、ごくごく若い世代には、もはやあまりピンとこなくなった話題ではある。オウム後継教団が、そうした若者をターゲットとして信者を増やしているという話もある。さらに、昨今のスピリチュアルブームや宗教回帰の兆しを見ていると、宗教の黒い部分に対する反省の意識がいささか欠如しているようにも思える。戦後日本最大の犯罪のひとつが、教祖の俗物ぶりとともに強烈な宗教性に導かれていたものであったという事実、これを改めて痛感するためにも、本書のような「オウム本」の好企画は、引き続き世に問われるべきだろう。